164人が本棚に入れています
本棚に追加
自分の生まれた家が神社兼祓い屋という名目の陰陽師の家系のせいなのか、小さい頃から妖怪やら怪異に付きまとわれる、襲われるという一般的な男子とは少しかけ離れた環境でずっと育っている。
つい最近16歳になった今では、多少の妖怪くらいで驚くことも少なくなるという、謎の経験値も積んできた。
だが、こんな風に妖怪に出会った時ばかりは自分の家が町外れ。しかもその上、山の中腹であることを恨んだりするものの、高校生にもなって、弱小妖怪に追いかけられてビービーと泣くわけにもいかないし。
途中、コンビニで飲み物を買いがてら、鞄の中の頼みの綱でもある爺ちゃん直筆の札の枚数を確認するも、こんな時に限って1枚しか入っていない。
はぁ、と小さくため息をつくも、念のため、と自身が練習で書いた札を含め、数枚を制服のポケットへと捩じ込む。
そしていつの間にかつかず離れずの距離で、付いてきていたヤツは心なしか、最初よりも大きくなっている気がする。
[神 社]
[ コド……モ ]
[オレ、聞イタ]
[オマエ、マダ弱イ]
少しずつ妖怪が話す言葉が増えてきており、いい加減うるさい……と思いながら、コンビニで買った炭酸飲料のペットボトルを開ける。
ぷしゅ、と良い音をたてた飲み物を飲もうと口に近づけて、ふと、今、自分が立っている場所が、とある場所だということに気がつく。
ここは、この町の最北の十字路で、数メートル先は自分達の土地、背後には住宅街という交差点のど真ん中。
「いや、でも、まだ昼間だし」
妖怪の出やすい時間ではないはず。
そうは思いながらも、ふと、自分の手が、止まる。
ーー 往魔が時の交差点には注意しないといけませんよ。坊ちゃん
ーー 往魔が時は、出やすい、というだけの時間です。
ーー アナタは、もう少し自覚をしないといけません
ふいに、今朝も小言を言っていたアイツの声が頭の中に響く。
そして、気がついたことが、もうひとつ。
「音が消えた」
風の音や、聞こえてくるはずの町の音がしないのだ。
「……ッやられた……」
今、自分の立つ此処が、現実世界とは違う、と理解した次の瞬間、むわとした重みのある空気があたり一面に広がり始める。
ぞわりと背中を何かに撫でつけられるような感覚が走る。
最初のコメントを投稿しよう!