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未だ現役の憑き物落としの十ニ代目の爺ちゃんは、所謂、祓い、と呼ばれる悪い妖怪の退治をしている。
けれど、父さんは爺ちゃんの跡を継ぎ、十三代目ではあるものの、ウチの家系の中でも最も呪術力が低い、らしい。一人前に札をしっかり書くことも出来ない俺が言うのも、ものすごく失礼な話だが、ハッキリ言って、父さんの札じゃ低級妖怪しか倒せない。
そしてそれは今も昔も、現在進行形で切羽詰まるほどに身に沁みて体感している。
だが、それ以上に父さんの札が壊された今まさに体感をしていることが、もうひとつ。
それは
「カタコトの言葉だから、中級以上っ!」
ズボンに捩じ込んでおいた自分が練習用に作った札も投げつけ、せめてもの足止めに、と距離をとり続ける。
だがそれも、ヤツが暴れる度に、ビリビリと空気の振動を体感するほどにヤツには効いていないらしい。
―― きちんと練習しておかないと困るのは自分ですよ? ………十四代目……
―― 中級妖怪は言葉を覚えるのです。ですが、十四代目、それに答えてはいけませんよ
―― まずは護符を書けるようにしておかないと!ご自分の手で書く護符は効力が………って! 聞いてますか! 真備様! 少しは白澤の話もきちんと聞いてください真備様!
「………あー! もう! 本当になっ!! チッ」
バリンッ、と一枚目の札が破られる。
足止めに投げつけた複数枚も、長くは持たないだろう。
いつもいつも周りに口煩く言われる言葉ばかり思い出しても、現状回避が出来るわけじゃない。
(何分なら持つか)
チリッ、と頬に走ったほんの少しの痛みに、手の甲でぐい、と拭えば、赤い筋が手の甲に走る。
―― いいですか? 坊ちゃん。
―― それと……アナタの血は
本来ならあと少しの距離でつくはずの敷地までの距離が、時間を追うごとにに重く伸し掛かる空気のせいで、なかなか足が進まずに、やたらと遠くに感じる。
バリバリッ、という音とともに破られるのは、複数の札。
[グゥオォォォォォォ!]
咆哮をあげ、暴れる度に、ビリッ、と嫌な音が響き渡る。
(………あと、少しっ……!)
伸し掛かる空気を振り払うように腹に力を入れて上半身を起こす。
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