第2話 見習い陰陽師 真備

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 ヤツに捕まったところで腕とか脚とかもぎ取られたり、全身の血を吸われたり、最悪の場合は、まぁ、死ぬんだろうけど。  とにかくとりあえず俺に良いことなど何一つも無い。 [オ前! 喰ウ!] 「だぁぁぁ!腹減ってんのはこっちだっつーのー!!」  とにかく神社の結界に触れること。しつこくアイツにそう教わってきた。  だが何というかやはり弱小の父さんと見習いの俺の札だ。 [逃ガサナイィィッ] 「やっぱ効かねえぇー!」  バリンッ! と大きな音を立てて、最後の札たちが、一斉に破られる様子を目撃し、思わずそう叫んだ瞬間、ゴォォォっ、と激しい風を巻き起こしながら、ヤツがものすごい速さで近づいてくる。 「っ! やばっ?!」  灼けるような熱さの妖気と、息苦しさに、身の危険を感じながらも走り始めた次の瞬間。 『だから、いつも言っているでしょう?』  その言葉とともに、先ほどまでの灼けるような熱さも重たかった空気も、まるで嘘のように、一瞬にして声の持ち主によって塗り替えられる。  ひやりとした空気が身体に溜まっていた熱と、肺の中の重たかった空気をも塗り替えていく。  ふわ、と周囲に広がったほんの少しの甘さを含んだ木蓮の香りも、この空気も、どれもこれも、とてもよく知っている。  この声の持ち主を、俺は生まれる前から、ずっと、知っている。  彼の名は ―― 「往魔が時の交差点には注意しないとイケませんよ、坊ちゃん」 「………(ぬえ)」 「とりあえず、お説教は後でたっぷりとしますから。しっかりと掴まっていてください」  ニッコリ、と、俺が『鵺』と名前を呼んだ者が笑顔を浮かべるが、端正な笑顔すぎて、妖怪と対峙したものとは違う意味で、つぅと冷や汗が背を流れる。  けれど、妖かしの空気にあてられたせいで体力を大いに消耗した俺は今、鵺に掴まったままで、まともには動けないでいる。 「坊ちゃんに手を出そうなんて、100万年早いんですよ。この雑魚妖怪が」  ゾク、と背に走る寒気は、先ほどの妖怪に感じたものとは、比べものにならない。  俺を抱えた手は、いつもと変わらない。  けれど、放たれた言葉と、ぐったりとした俺をちらりと見た鵺の切れ長な目には、まったくと言っていいほどに、温度が感じられない。  そして、冷徹な表情と声を向けられた妖怪が、ビクッと大きく体を揺らした。
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