第2章

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ママの涙を見たのは、あの引越しの前の日と、今回で2回目。 前もそうだったけど、普段冷静なママの涙は、私をひどく動揺させる。 静寂の中、自分の鼓動だけがやけに大きく聞こえてきて、ママの顔に釘付けだった視線を、無理矢理引きはがす。 「おばあちゃん!何か、窓の外に、突然島が出現したんだけど!」 目をそらしても頭の中に残るママの涙を振り払うように、階段を下りながらおばあちゃんにいつも以上の大声で聞いた。 おばあちゃんはいつも通り、のんびりと朝ごはんの支度をしていて、その変わらない光景に、やっと心を落ち着かせることができた。 「雨も上がって、やっとお日様が出てきてくれたねえ。空気も澄んどるし、今日は本当に『島寄せ日和』やねえ」 にこにこと笑顔のおばあちゃんも、いつもよりも晴れやかな顔をしている。 「しまよせ……びより……?」 「晴れて空気が澄んだら、空もいつもより高くて、いつもより遠いところまでよく見えるやろ?いつもは見えん島も、こっちに寄って来たように感じる。そんな日を、この辺では『島寄せ日和』って言うとよ」
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