第一章 嫌な上司

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 この会社にOLとして入社してから早10年、磯部さやかも34才になる。お茶汲み、コピーとり、データ入力で毎日同じことの繰り返しで飽きていた。同期はとっくに結婚して子育てしているというのにまだ自分だけ独身、彼氏なし。いつになったら、理想の王子様に出会えるのかと悲観的になっていた。 「磯部、会議の資料はできたのか?」  ぼーとしていたさやかに上司の山上は容赦なく、さやかの頭を叩く。 「磯部、何ぼーとしているんだ?給料もらっているんだろう?ちゃんと仕事をしろよ?」  慌ててパソコンを打つさやか。 数時間後、やっと資料が完成し、休憩時間に入ったさやかは、化粧室で鏡に向かって泣いていた。その時、通りかかった後輩たちの声が聞こえてきた。 「ねぇ、磯部先輩って、どんくさいわね、34才にもなってまだお局OL、結婚出来ない、仕事も出来ない、私はあーいう風になりたくないわ、早く婚活して寿退社しましょう?」 「私も玉の輿のりたいわ」  さやかはその言葉を聞いてショックを受けた。  その日の夜、行きつけのバーで浴びるようにカクテルを飲んでいた。 「マスター、カシスオレンジおかわり」 「お客さん、飲みすぎですよ。今日は控えられたほうがよろしいのでは?」 「うるさいわね、私はお客よ、飲んで何が悪いのよ、何もかも嫌なのよ、あんな会社なんか辞めてやるわ」   さやかはこてんと寝てしまった。トントンと肩を叩たかれて目覚めた。 「お客さん、閉店ですよ」  慌てて飛び起きると、そこにはあの憎き上司、山上がいた。 「ギャー、山上主任!」 「主任じゃないだろう?お前、酔っぱらって俺の名前叫んでたんだよ、もういやだ、こんな会社なんか辞めてやるってな」  さやかは、何事もなかったように代金を、払い出ていこうとした。 「磯部、くじけるなよ、この10年、せっかく頑張ってきたんだから続けろよ、応援してるからな」  その瞬間、さやかは足を止めた。   
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