可愛い訪問者

23/23
897人が本棚に入れています
本棚に追加
/418ページ
**** お好み焼きを食べてお皿を洗い終えると、奏斗がコートと鞄を手に取った。 「二人に会えて楽しかったよ。 お好み焼き美味しかったって律君に伝えてね。 じゃあ、遅くならない内に帰るよ」 「えっ、泊まっていかないのか?」 「うん。 せっかく遠くからお兄ちゃんに会いに来たんだから、明日はちゃんと付き合ってあげなよ」 当然のように奏斗が泊まると思っていたから、びっくりして反応が遅れた。 「おやすみ。また来週」 唇にチュッとキスをして、奏斗は帰ってしまった。 土日とも奏斗と過ごせないなんて、付き合ってから初めてだ。 ぼんやりしながら部屋に戻り、ぐっすり寝ているチビ達を見た。 いつもより人数は多いのに、何故か寂しく感じて泣きそうになる。 はぁとため息をついた時、響がモゾモゾと動いて目を開けた。 「兄ちゃん…」 「どうした?お腹空いたのか?」 「ううん。 ねー、かなちゃんは?かなちゃんは、どこにいるの?」 隣にいたはずの奏斗がいないから、少し焦っているようだ。 「帰ったよ」 「帰った?なんで?」 「さあ……。 二人に会えて楽しかったって言ってたよ」 響は俺をじっと見た後、再びベッドに寝転んで頭から布団を被ってしまった。 たった1日でこんなになつくなんて……。 俺は、布団の上から頭をポンポンと撫でて、拗ねてしまった響の機嫌をとる。 でも、ちょっと嬉しい。 自分の好きな人を家族も好きになってくれたっていう事だから。 「明日は兄ちゃんが1日遊んでやるから、どこに行きたいか考えとけよ。 母さんには夜までには送るって言ってあるから」 「……分かった」 小さな声が聞こえた。 この時の俺は自分の事に精一杯で、響の気持ちになんて全く気づいてなかったんだ。
/418ページ

最初のコメントを投稿しよう!