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*山城 奏斗(やましろ かなと)*
家に帰ると玄関に見慣れない靴があった。
「ただいま」
一応帰って来たアピールだけして自室に籠ろうと靴を脱いでいると、リビングから姉が出てきた。
「あら、奏斗帰って来たの?」
「それはこっちのセリフ。
そっちは?何か用があるの?」
姉の綾音(あやね)は大学卒業と同時に陶芸家の家に転がり込んで、家には滅多に帰ってこなくなったんだ。
「失礼ね。用がなくても私の家なんだから帰って来てもいいでしょ」
姉の雰囲気がちょっと変わっていて驚く。前はこんなに感情を表に出す人じゃなかったのに。
「いいけど……。綾ちゃん変わったね」
「その言い方懐かしい。
小学生くらいまで、お母さんの真似してそう呼んでたよね」
あっ。響君達にかなちゃんって呼ばれて、そう言えば俺も姉の事を綾ちゃんって呼んでたなって思い出したんだ。
だから、つい言ってしまったのかもしれない。
「私、変わった?」
「うん。なんか分かりやすくなった」
「それ、お母さんにも言われたわ。
小さいときから何考えてるのか分らない子だったけど、最近はちょっと分かるようになったって」
確かに。
綾ちゃんは他の女の子と違っていつも静かだったから。
親に口ごたえしたり、喧嘩したりもなく、学校での出来事を話したりもせず、淡々と学生生活を送っていた気がする。
中、高と美術部に入り、大学は美大に行き、その後はOLとかしながら絵を描いていくのかなってみんな思ってたから『陶芸家になる』って言われた時はみんな驚いたんだ。
『遅い反抗期ね』って母さんは笑ってたけど。
「今の生活は楽しいの?」
こんなこと聞くのは初めてだ。
「奏斗も変わったね」
綾ちゃんは俺を見て嬉しそうに笑った。
「そうね、楽しいよ。
あんたも楽しいの?」
「大変な事もあるけど、俺も楽しいよ」
「良かったじゃない。
あ、そうだ。あんた明日暇?
月1でやってる陶芸教室と陶器の販売会があるんだけど、いつも手伝ってくれる人がインフルで倒れたから、暇なら手伝ってよ」
明日か。奏吾とも会えないし、たまには俺も家族孝行しようかな。
『いいよ』と返事した時、鞄の中で携帯が鳴った。
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