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*** えっと……なんでこうなったんだろう。 俺は今、工房の外で松永さんにいわゆる壁ドンをされているんだ。 綾ちゃんの車で出発した俺達は駅で松永さんを拾い、9時には陶芸家の家に到着した。 「やあ、よく来たね」 俺達を迎えてくれたのは、40代前半くらいの男の人だった。 冬なのに半袖の黒Tシャツにジーンズという姿で、丈が長めで足のところが割れているエプロンを付けていた。 ろくろ作業の時に足を開くので、割れてる方がズボンが汚れにくいらしいんだ。 陶芸家って聞いてもっとおじいちゃんを想像してたので、すごくびっくりした。 これって師匠の所に転がり込んだんじゃなくて、単なる同棲じゃないのかななんて疑ってしまう。 杉岡と名乗ったその人は、寡黙ないかにも職人という感じで、若い女性にモテそうだったから。 車で1時間位の所だけど、周りは山と畑と田んぼしかない。少し先に家が見えるけど、お隣というには遠すぎる。 平屋の日本家屋の隣にはまだ新しい工房が建っていて、そこで月に1度陶芸教室を開いていて、陶器の販売も行っているらしい。 「ここは杉岡さんのお祖父さんが開いた工房で、3年前に新しく建て替えたの。 お祖父さんもお父さんも既に亡くなっていて、お母さんは病院に入院されているのよ」 綾ちゃんに車で教えてもらっていた事を思い出す。 ということは、ここに二人で住んでるんだ。 少し複雑だけど、綾ちゃんが幸せならいいかと思い直す。
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