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彼は俺の事なんて見えてないみたいに真っ直ぐ鏡の前まで来ると、ふぅと小さくため息をついて、顔をバシャバシャ洗い始めた。
水を止めて、ポタポタと顔からしずくをたらしながら、手をポケットに入れようとして『あっ』と小さく呟いた。
ハンカチを忘れたんだな。
なんか可愛い。
ほんの数分で印象がコロコロ変わって面白い。
俺は田丸さんにもらったハンドタオルを差し出した。
断られるかも…と思ったが、素直に『ありがとう』と言って顔をごしごし拭き始めた。
やっぱり可愛い。
返してくれるつもりだったみたいだけど断って、田丸さんの所に戻った。
「遅かったね、大丈夫?」
「すみません。大丈夫です」
目の端に歩いていく彼の姿がちらりと映った。
「山城ー」
仲間に呼ばれている。
ヤマシロ君か。俺は頭の中に『ヤマシロ』という名前をそっとしまいこんだ。
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