夏の終わりに起きた出来事‥その全て。

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「どうして何も聞かないの?バレてないとでも思ってる?」 「べつに聞きたいことないし」 なんで、そんなに上からなんだよ。 本当に口止めしたいなら 〝お願いします。何でも言うこと聞くから黙っててください!〟とか 涙ながらに泣きついてくるべきだろ。 恐ろしい性格してんな、マジで。 「…言いたいこともないの?」 「言いたいことは一つだけ。 とっとと、やめれば?オマエの姉ちゃんが、かわいそう」 オレはまた、ぼんやりと思い出す。 ずいぶん昔の、夏祭りの記憶を。 年に一度、町中の人間が集まる夜。 神社の境内に続く道は、多くの人々でごった返してた。 ガキのオレは、祭りの喧騒にはしゃいでて 人ごみを、かき分けながら進んでたら、キャッ!間近で悲鳴があがる。 オレの腕が、たまたま前から歩いてきた、この女にぶつかったらしい。 反動で、相手が手に提げてた金魚袋の水が、花柄の浴衣に飛び散った。 激怒した女が、オレの顔めがけて、金魚ごと袋を投げつけてきたから オレは頭も服も、全部びしょ濡れになって‥その場に立ちつくす。 視線を落とせば、自分の足元で あわれな金魚が口をパクパクしながら、のたうち回ってた。 女は連れ立って歩いてた、姉に叱られる。 そうして ぼう然としたまま佇んでるオレの前にひざまずき 浴衣の袂から取り出した、いい匂いのするハンカチで 濡れた体を、そっと拭ってくれたのは、女の姉ちゃんだった。 〝ゴメンね?〟と、優しく声をかけられながら 目の前で揺れる、後れ毛にドキドキして オレの体は、ずっと硬直したまま。 もちろん 無残な金魚の死に際の光景も、すっかり頭から消え去ってた。
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