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「―――はぁ、凛音さん、いい加減に……」
「テオドアくんっ、どうして、僕を避けるのっ!」
「……」
「ずっと、ずっと……他の人とは話したりするのに、僕が話しかけようとする前に逃げるじゃないかっ」
「逃げてなど……」
「逃げてるっ!」
実際、僕は、凛音の言う通り、彼に会うのを極力避けて来た。
それは凛音がどうかということではなく、僕の中にあるお父様の言葉の暗示なのか、どうしても麗を思い出させるから。
凛音を見るたびに、麗の笑顔を思い出してしまうから。
その思いのまま、凛音の微笑みに答えられないと思ったから。
「僕が……何かしたの?」
背中のシャツが濡れているのを感じた。
凛音が泣いてる。
胸元にある凛音の手の上に、僕の手を優しく置いた。
「凛音さん、離して」
しばらく凛音の手を撫でているうちに、ようやく手の力が抜けて来た。
僕はゆっくりと振り向くと、凛音の顎に手をやった。
泣き顔の凛音は、やっぱり麗を思い出させて、思わず顔を歪めてしまう。
「なんで、そんな顔するの……」
悔しそうな顔で見上げる凛音。
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