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 彼女と決めたのは、そのモンローウォークがあまりに見事だったから。  いつもの喫茶店に行くのに、ブラブラ歩いていた自分の前を、一匹の猫が歩いている。家を出てからずっとだ。付いて行ってるわけではない。たまたま同じ方角に向かっているのだろう。  見事なモンローウォークだなあ。そう思ったとき、彼女がいきなり止まった。なぜか自分も止まってしまった。彼女はゆっくりと振り返る。  目があった?  一瞬固まる。でも彼女はまた前を見て歩き始める。さっきと同じように。  まるで『付いてきなさい』って言ってるみたいじゃないか。  いいから、モーニングの時間が終わってしまう。どうぞお先に行ってください。こんなヤツ放っておいて。  そう思ったとき、彼女がまた振り返った。  なに?なんか用?また止まってしまう。  そんなことを数回繰り返した。心なしか彼女の歩みは早くなっている気がする。自分も。  こんなことが昔あった。  あれは何歳くらいだったかなあ。そんなことを思いながら少し早歩きで彼女の後ろを歩く。  彼女はまた止まって振り返る。そして数秒止まる。なぜか自分も。多分、目があっている。80%くらいの確率で、付いてこいと言っているようだ。どうせ暇だ。お付きあいしますよ。そう思ったとき、彼女がまた歩き出した。今度は少し早い。いつのまにか自分も小走りに。  彼女はスピードをあげる。付いてこいと行っている。  二本足で走るウサギのあとを付いて行ったアリスは、ワンダーランドに行った。モンローウォークで歩く猫のあとを付いて行くと、どこに行くんだろう。  昔、同じことがあった。  確かに。いつ頃?何年前?思い出そうとしているけれど、彼女に付いて行くために足を前に動かすことだけに血液が使われている。脳には届いていない。
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