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「だからって、泥棒扱いすることないと思うわけですよ」
「まあねー」
「普通部の人がやったって可能性もあるわけですし、自分がどこかでなくした可能性だってゼロじゃないわけですし」
「ポチ子は正義の味方なの?」
「嫌なんですよ、真偽のはっきりしないうちに立場決めるの」
「まっすぐなんだ」
試験期間中は部活もない。朝練も昼練もないので、先輩はこうしてゆっくり一緒にお昼を食べてくれる。
同じようなカップルが数組いる中庭で、ぽかぽか、よりは若干強めの日差しを浴びながら、先輩は学食のかつ丼を食べている。ほっそりして見えるのに、背も高いし運動部だけあって、けっこう食べる。
形のいい唇を舐めながら「でもさあ」と言った。
「実際、あるでしょ、真偽もわからないうちに立場を決めなきゃいけない場面なんて」
「そしたらそのとき考えますよ。何事も臨機応変、現場主義です」
「あ、そ」
ぷっと吹き出すと、きれいな歯が見える。私はひざに乗せたオムライスを食べながら、その横顔に見とれた。
「あっ、圭吾(けいご)じゃんー」
「ほんとだ、なにしてんの、こんなとこで」
そこに女子の先輩ふたりが通りかかった。長い髪を風に揺らして、ふたりともアイドルばりのかわいさだ。
加賀見先輩は特にそのかわいさに感銘を受けた様子もなく、「メシ食ってんの」と見ればわかることを律儀に答えた。
ふたりが顔を見合わせて、ぷっとおかしそうに吹き出す。
「じゃなくて。なにその子?」
「最近すぐどっか行っちゃうと思ったら、新しいおもちゃ見つけたの?」
「ねー、今さ、あっちで面白いことやってんの、行かない?」
体育館のほうを親指で指し示し、ひとりがにやっとする。
私はお邪魔な気がして、食べかけのオムライスのトレーを持った。
「あの、先輩、私…」
「ポチは気をつかわなくていいよ」
立ち上がりかけた私の腕を、加賀見先輩が引っ張って座らせる。女の先輩たちがキャーッと明るい声ではやし立てた。
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