Episode 05. ストロベリー・フィールズ

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「だからって、泥棒扱いすることないと思うわけですよ」 「まあねー」 「普通部の人がやったって可能性もあるわけですし、自分がどこかでなくした可能性だってゼロじゃないわけですし」 「ポチ子は正義の味方なの?」 「嫌なんですよ、真偽のはっきりしないうちに立場決めるの」 「まっすぐなんだ」 試験期間中は部活もない。朝練も昼練もないので、先輩はこうしてゆっくり一緒にお昼を食べてくれる。 同じようなカップルが数組いる中庭で、ぽかぽか、よりは若干強めの日差しを浴びながら、先輩は学食のかつ丼を食べている。ほっそりして見えるのに、背も高いし運動部だけあって、けっこう食べる。 形のいい唇を舐めながら「でもさあ」と言った。 「実際、あるでしょ、真偽もわからないうちに立場を決めなきゃいけない場面なんて」 「そしたらそのとき考えますよ。何事も臨機応変、現場主義です」 「あ、そ」 ぷっと吹き出すと、きれいな歯が見える。私はひざに乗せたオムライスを食べながら、その横顔に見とれた。 「あっ、圭吾(けいご)じゃんー」 「ほんとだ、なにしてんの、こんなとこで」 そこに女子の先輩ふたりが通りかかった。長い髪を風に揺らして、ふたりともアイドルばりのかわいさだ。 加賀見先輩は特にそのかわいさに感銘を受けた様子もなく、「メシ食ってんの」と見ればわかることを律儀に答えた。 ふたりが顔を見合わせて、ぷっとおかしそうに吹き出す。 「じゃなくて。なにその子?」 「最近すぐどっか行っちゃうと思ったら、新しいおもちゃ見つけたの?」 「ねー、今さ、あっちで面白いことやってんの、行かない?」 体育館のほうを親指で指し示し、ひとりがにやっとする。 私はお邪魔な気がして、食べかけのオムライスのトレーを持った。 「あの、先輩、私…」 「ポチは気をつかわなくていいよ」 立ち上がりかけた私の腕を、加賀見先輩が引っ張って座らせる。女の先輩たちがキャーッと明るい声ではやし立てた。
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