Episode 01. 目覚め、女子高生

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Episode 01. 目覚め、女子高生 ──────────────────────── 我が家はちょっと複雑だ。 小さい頃母が他界し、父が再婚した。ろくでなしの父は失踪し、血の繋がらない母と私が残された。 まだ若くて美しかった母は、やがて新しい夫を連れてきた。 それが格(いたる)くん。 「行っといで」 「うん」 毎朝私を見送ってくれるのは、格くん。 背の高いシルエットが、家の前の一本坂を延々上りきるまで、気だるげに手を振っていてくれるのが見える。 毎朝、毎朝、私は一日ずつ歳をとる。 それを楽しみに生きている。 「聞いてくれる? 開発と市場の間を取り持つのがうちの部署の使命だってさ、間って簡単に言うけど、どんだけ広い溝がそこにはあると」 「広いんだ、深いんじゃなくて?」 「テレビ見ないんなら消していい?」 万季(まき)ちゃん、すなわち私の母は、大手メーカーに勤めるバリバリのキャリアだ。会社のストレスを素直に全部持ち帰ってきて、ぶちまける。 格くんの作ったごはんを食べてお酒を飲んで、溺れる心配をさせながらお風呂に入って、翌朝には再び美貌の戦士として家を出ていく。 「未弥(みや)ちゃん、今日さあ、あれ開けようよ、この間買ったハニーのバスソルト」 「ウイスキーの匂いに負けて終わっちゃうよ、もったいない」 「じゃ、倍入れよう!」 「あっ!」 私と格くんが止めるのも聞かず、ざらざらと大量のバスソルトを湯船にぶちまけて、さっさと服を脱ぐと万季ちゃんは湯気の中に消えた。 アルコールとはちみつの、強烈な香りが漂ってくる。目の前を颯爽と通りすぎた、真ん中のくぼんだ白い背中の残像。 私と格くんは目を合わせて、しょうがないなあと笑った。 我が家の屋根の下には、赤の他人が三人。 おおむねうまくいっている。 「私も入ろ」 「タオル、出しとくよ」 格くんはにこりと笑い、服を脱ぐ私に見向きもせず、バスルームを出ていった。 ふん。
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