Episode 05. ストロベリー・フィールズ

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「なに、ポチって言うの? かわいい」 「この子、あれじゃん? バスケ部の練習、よく見に来てた」 「あー、圭吾狙いだったんだ。よかったね、この人来るもの拒まずだから、とりあえず絶対つきあえるし」 「ポチって納得。ちっちゃくて、目とかくりっとしてて」 動物と遊ぶときみたいに、私の前で指をひらひらさせて「ポチー」と呼んでくれる。ここは「ワン」とでも言っといたほうが喜ばれるのかなあ、と思ったとき。 「お前らのじゃないんだけど」 冷ややかな声が、場の空気を凍てつかせた。 加賀見先輩はお箸を手に、無表情で女の先輩ふたりを見上げている。 彼女たちは心外そうに顔を見合わせ、やがてぷいっと行ってしまった。 「…先輩」 「ポチ、部活見てくれてたの」 「え?」 やっぱり気づいていなかったのか。もしかしたらその健気さに打たれてオッケーしてくれたのかもと思っていたんだけれど、さすが先輩、周囲のことなんてまったく目に入っていない。 首をかしげてこちらを覗き込む先輩に、「見てましたよ」と答える。 「たまにですけど。先輩が走ったり跳んだりしてるとこ、かっこよくて」 「ありがと」 こんなこと、腐るほど言われているだろうに、先輩はにこりと優しく笑った。思わず見とれてしまってから、昼休みが残り少ないことに気づいてせっせとオムライスを口に運ぶ。 「3年生の試験て、どんな感じなんですか」 「教科減るから楽だよ。2年はきついよね、物化あるし、社会も三教科でしょ」 「私、こう見えてけっこう勉強できるんですよ」 「そんな感じだよね」 えっ、ほんと。 バカっぽいのになんで点数とれるの、なんてよく言われるのに。 「先輩と同じ大学、目指してもいいですか?」 「俺、めちゃくちゃ上のレベル狙ってるよ?」 「知ってますよ、でも目指すだけなら自由でしょ」 その頃までつきあっている保証もないのだけれど、いやむしろこれまでの先輩の噂を考えるなら100%その頃にはつきあっていないのだけれど、先輩はそこに触れることはなく。
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