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「ま、せいぜいがんばって、俺の後ついてきなよ」
春の日差しに前髪をきらきら透かして、小バカにした顔でそう笑った。
* * *
「ねー、なんか不穏なの、聞いた?」
「なに?」
試験も終わったある日、芙由子が眉をひそめて私の席にやってきた。
「部室棟でも盗難が続いてるんだってさ」
「へえ、珍しいね」
たいていこういう話は、単発でぽっと騒ぎが持ち上がって、気づいたら消えているのに。
「バスケ部が被害総額ひどかったって話。あそこ、いい家の坊っちゃんとか多いからさあ」
「バスケ部!」
そりゃ由々しき事態だ!
「いきなり食いつきよくならないでよ、現金だなあ」
「だって加賀見先輩も巻き込まれてると思ったら。先輩んちだってほら、お金持ちだし」
「その加賀見先輩が、夜間部をかばって孤立してるらしいよ」
芙由子の顔が、案じているように曇る。
「え?」
私はちゃんと聞こえていたのに、なんでか聞き返した。
「──先輩!」
帰り、校舎を出たところで先輩の背中を見つけ、駆け寄った。
両手をポケットに入れて歩いていた先輩が、振り向いてちらっと笑い、「一緒に帰る?」と片手でおいでおいでをしてくれる。
「あ、はい…あの、でも」
…部活は?
その言葉を飲み込んだ。
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