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Episode 02. 草も生えない
Episode 02.
草も生えない
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「結婚したとたん、遊んでくれなくなるとかさあ」
「ありますねえ」
「ひどいと思わない? 本気で仲良かったんだよ俺ら」
「新婚のうちは仕方ないんじゃないですか」
「もう四年になるよ!」
「………」
それって、あなたのほうこそうざいんじゃ、とは言えなかった。
あとですね、さっきから私、すごく言いたいことがあって。
「自分だって結婚してるでしょ、河村(かわむら)さん」
「俺は結婚してからも、変わらず奴と遊んでたもん」
「それが奥さんと冷えた原因なんじゃないですか」
「嘘だあ」と深刻ぶる様子もない。
しょうもないな、この人。
「そのご友人て、なに繋がりですか?」
「え、小澤(おざわ)さんも知ってるでしょ、木ノ内だよ、木ノ内格」
…そんな人、私、知ってる?
ぽかんとしていると、あっそうか、と河村さんが言い直した。
「内田類(うちだるい)だよ」
「あっ、内田さんのことですか!」
うちの編集部が贔屓にしている翻訳家さんだ。
そういえば、駆け出しの頃から河村さんと仲がよかったって聞いたことがある。
だとしたら、今でも充分仲がよくて、仕事でつきあいもあるし、そこそこ頻繁に飲んだりしてるはずだ。求めすぎなんじゃないのか。
九州料理の居酒屋の、カウンターの端っこの席から店内を振り向いたら、河村さんがすぐに察して店員さんを呼んでくれた。
若い店員さんに、私はカンパリソーダをオーダーした。
「俺、黒霧島のロック、相変わらずマイペースだね、小澤さん」
だって焼酎も日本酒も好きじゃないんだもの。
じゃあ九州居酒屋なんか来るなよと言われるかもしれないけれど、ここは料理がおいしいのだ。
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