Episode 04. ふたりの王子

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Episode 04. ふたりの王子

Episode 04. ふたりの王子 ──────────────────────── なんだ、けっこう面白いじゃない。 アマチュア小劇団の舞台なんて、小中学校時代に意味不明な自己陶酔劇を見せてくれた"演劇クラブ"に毛が生えたくらいのものかと思っていたのに。 小さな四角い舞台の二面が観客席になっており、パイプ椅子がこちら側に10席×5列ほど、直角に対する面にも同じだけ。 つまり100人いるかいないかというくらいの観客に向けて、舞台を所狭しと駆け回った役者たちは、全力の芝居を見せてくれた。 ふう、と満足の息をつき、ロビーへ出た。 狭いロビーには、まだ汗の引かない役者たちが出てきており、知り合いなのかファンなのか、客たちとしゃべっている。 へえ、こんな距離の近い文化なのか。 驚きつつも交流には興味がなかったので、まっすぐ出口に向かおうとしたところ、急に進路に飛び出てきたひとりの男とぶつかった。 男が着ている、汗で湿ったTシャツに顔が当たり、不快さのあまり思わず舌打ちが出る。そのまま行こうとしたら、そいつから「おい」と声をかけられた。 「おい」ってなんだ、ここはせめて「すみません」だろう。 劇団のロゴの入ったTシャツだったから、おそらくスタッフか劇団員。しょせんアマチュアは、ホスピタリティもこのレベルか。 「おいっつってんだろ、そこの地味女」 思わず足を止めてしまった、私の負けだ。 憎しみと軽蔑を込めて振り向くと、そこには私がもっとも嫌いな、イケメンと呼ばれる類の面が、頭ひとつ上から見下ろしていた。 さっきの舞台で主役を演じていた男だ、と気がついた。 端正な顔立ちが、下品ににやりと笑う。 「なんだ、振り返るってことは自覚あるんだな」 「私が地味で、誰かに迷惑かけました?」 「見た目通り、余裕のねえ性格してんなあ。アンケート用紙もらったろ、書いて出してけ」 「なんで私が、わざわざそんな手間」 「なに言っても『私が、私が』だな。人となじめないのがコンプレックスなくせに、バカな一般大衆とは違うって思われてえのか?」 なんなんだ、この男。 これ以上つきまとわれるのも恐ろしかったので、入るときに渡されたチラシの束からアンケート用紙を出し、丸だけつけて男に渡す。 男はそれにさっと目を走らせた。
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