Episode 05. ストロベリー・フィールズ

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隣に並んでも、先輩の様子にいつもと違うところは発見できなかった。ちょっとぼんやりしていて、ちょっと微笑んでいて、私の視線に気づくと、ちょっと意地悪い目つきになって、優しく笑う。 「なに」 「あ、あの…」 そこに、ばさっとなにかが投げつけられた。 足元に転がってきたものにつまずいた先輩は、ああ運動神経いいんだなあという動きで転ぶのを免れ、振り返る。 そこにはジャージ姿の男の先輩たちが3人立っていた。バスケ部のジャージだ。私がどの部活ジャージよりもかっこいいと思う、黒と赤のジャージ。 投げつけられたのは、加賀見先輩のものたちだとわかった。シューズやタオル、ドリンクボトル、着替え、ユニフォーム。 先輩はつまずいたドリンクボトルを拾い上げ、そのほかの、足元に散らばったものを、どうしようかなあと考えているような様子で見下ろしていた。 「お前、もううちの部にいらねーから」 ジャージ姿のひとりが、傲慢に言い放った。 加賀見先輩は彼を見つめ、ひとつ息をついて、「そう」と残念そうにつぶやく。 それからしゃがみ込んで、着替えなどをひとつひとつ拾っては胸に抱え、ふと気がついたように彼らを見上げた。 「なにか袋みたいの持ってない? これじゃ持ち帰れないんだけど」 「…ふざけんなよ!」 バスケ部のひとりが、先輩の手元を蹴った。せっかく拾い集めたものたちが、また散らばってしまう。 私は足元に転がってきたドリンクボトルを反射的に拾い、そのとき、それまで手伝いもせず佇んでいたことに気がついた。 拾うのをあきらめたんだろう、加賀見先輩がゆっくりと立ち上がり、制服のひざを払う。そんなマイペースさは、ますますバスケ部の3人をイライラさせているように見えた。 「俺になにをさせたいわけ」 「泥棒の肩持つような奴は、いらねーって言ってんだよ」 「別に、夜間部がやったって決まったわけじゃないじゃん」 「ほかに誰がやるっつーんだよ」 「知らないけど。でも夜間部である証拠もないわけだろ」
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