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「ほんまに気分悪くなってるのかもしれんで?」
武彦が腕時計を見る。
「それとも、その辺の酔っ払いに絡まれてるかもしれんぞ!
千波ちゃんが危ない!大変や!早く助けに――!……ぐーぐー」
オーちゃんは、いきなりテーブルに顔を突っ伏して寝てしまった。
「さて、じゃあ俺が千波ちゃんをお迎えに行こうかな?」
銀川が楽しそうな笑顔を浮かべ席を立とうとするが、ヒロがすかさず
「いや、俺が行ってくる」
と遮った。
店の外へ出てみるが、千波の姿が見えない。
胸が急にざわつき始める。
一人にするべきではなかった。
(――どこかで転んだりしていないだろうか。
フラフラして俺にぶつかって来た様に、何処かの誰かにぶつかっていたとしたら……)
千波が他の誰かに華奢な身体を預けている姿が頭の中に唐突に浮かび上がった。
考えただけでカッと血が上ってしまう。
「千波――!千波!何処や!」
ヒロは思わず声を張り上げた。
「千波!」
店の通りから一本裏へ入り、キョロキョロしながら彼女の姿を捜す。
「ち……」
再び叫びかけた時、後ろから上着を引っ張られた。振り向くと、そこにはニコニコ笑った千波が居る。
「千波っ……おまっ」
ヒロは安堵と驚きに絶句した。
「ゴメンなさい!外に出て星を見ながら歩いてたの。
そしたら迷っちゃって……適当に歩いてたら、ヒロさんが居るのを見つけてね」
千波は手に何故か風船を持っていた。
しかも三つも。
「あ、これね?なんか、お店で呼び込みしててもらったの。ヒロさん何色がいい?」
千波は黄色と青とピンクの風船の糸をたぐりよせ、ヒロに何色の風船を渡すか真剣に 考えているようだ。
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