第一章 改札のBGM

5/17
前へ
/29ページ
次へ
特別なことは何もない、平凡なのんびりすぎていく時間をただただ眺めるような生活だった。 子供の頃には他の子たちみたいに立派な夢があった。 宇宙飛行士、という無謀な夢。 しかし、中学に上がるころには現実をみて、その夢が叶うことはないと思い、いつしかその夢は薄れ、自分の頭から消えてしまった。 その結果、高校受験も平凡に頑張って、大学受験も同じく周りに合わせて頑張った。 特別なんていらないし、ただ普通に生活できたらいいと思って歩んできた今までの人生に何の不満もないし、いまさら変えようなんてこれっぽっちも思っていなかった。 でも、変化というものは望んでいなくてもなぜか訪れてしまうもので、私の平凡に暮らしたい、という気持ちは彼との出会いをきっかけにまったく違った方向へと進み始める。 彼との出会いは、よくいう、何気無い日々の何気無い出会いってやつだった。 私のマンションの最寄り駅は夕方、ほとんど毎日改札にBGMを流している。 流しているといっても、駅がスピーカーなどを使って流しているわけではなく、ただいろんなストリートミュージシャンがいろんなところから集まって音楽をしている。 見慣れた常連の顔もあれば、初めて見る顔もある。 軽音部に入っている高校生のように見える子たちもいれば、もうすぐデビューするのかなって雰囲気を漂わせた私より少しだけ年下の人たちもいる。 ホームレスもいれば、いいギターと大量の機材を持ち込むお金持ちのひともいる。 もちろん、上手いひともいれば、下手くそなひともいる。
/29ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加