第10章

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出張準備や営業のノウハウを覚えている間に時間は過ぎ、あっという間に初めての北海道出張を迎えた。 東京とは違う爽やかな暑さを感じながらもソワソワと落ち着かない気持ちを処理する暇もなく、時間の限り藤堂さんと地図を片手に歩き回る。 移動中にもいろいろとアドバイスをもらうが、正直飽和状態のような頭では整理がつかず、せっかくの藤堂さんの言葉もふわふわ宙に浮いている。 初めの3日間で道南から道央方面に向かって営業に回りながら移動し、その間藤堂さんの営業トーク等を少しでも盗もうと必死に隣でメモを取った。 4日目の朝にホテル前に迎えに来てくれた藤堂さんの友人の中川さんと合流し、そこで道央に入る藤堂さんと分かれて車に乗せてもらう。 私が初めて営業に回ると藤堂さんから聞いていたのか、私の緊張を解きほぐそうとしてくれているようで中川さんはいろんな話をしてくれた。 外食産業の営業をしている中川さんは私のルートに合わせて今回の営業先を決めてくれたらしく、5日間一緒に回ってもらえるそうだ。 「リゾート施設なんかを中心に回るんだって?俺もホテルのレストラン部門とか回らないといけないから、気にしないでその間にショップとかエステとかの関連施設を回ればいいよ。あ、オーガニック関係もあるんだっけ?輸入雑貨は大変だなぁ」と言ってくれた。 中川さんも大学時代のバスケ部仲間らしいが、「運動辞めたら筋肉落ちて贅肉ついちゃってさぁ。嫁さんのメシも旨いし、車移動が多いから消費されないの」と言うように、背は高めだけれど藤堂さんや廣瀬さんたちに比べたらちょっとぽっちゃりさんだ。 営業だからなのか元々なのか、親しみやすい雰囲気を纏っていてムードメーカーといった感じ。 私が廣瀬さんや宮司さんと面識があると話すと驚いていた。 「ホント?あいつら元気してた?懐かしいなぁ」とニコニコしている。 「いつも男だらけでバカばっかりやっててさぁ。それが今じゃ弁護士と何だっけ…興信所って探偵みたいなもんなのかな。あいつららしいっちゃ、あいつららしいんだけどね。藤堂も“統括部長”なんてスゲー偉そうな肩書きついちゃってびっくりだよ」と終始楽しそうに話してくれて会話が途切れない。 「仕事中の藤堂ってどんな感じ?」という問いに、「眼光鋭くて鬼みたいです」と返すと爆笑している。
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