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深海さんが予約してくれたお店に近付いていくと、店先に一人の人影を見つけた。
店内から漏れる灯りと街灯の灯りに照らされて浮かび上がるシルエット。
そのシルエットを認めただけでいつも胸が温かくなるのは何故だろう。
「遥~!」
深海さんが満面の笑みで手を振ると、暗闇に浮かび上がるシルエットが此方に振り返る。
「お疲れさま~」とふんわり微笑んで駆け寄って来る彼女…仁科遥さん。
「梢~!久しぶり~!」と抱き着かれ、私もその細い身体に腕を回して「遥さん!」と抱き着く。
160cmの遥さんに抱き着かれると155cmの私は優しい匂いに包まれて気持ちまで優しくなったような気になる。
「お前らさぁ、毎回毎回俺を除け者にし過ぎだ!全く…ほら、行くぞ。」
「大和~。ヤキモチ妬いてるの?」
「…うるさい。」
「大和にはいつでも会えるけど、梢には月一回しか会えないんだからいいじゃな~い。」
「…いいから行くぞ。」
遥さんに弱い深海さんは何も言い返せずに不貞腐れた顔をして、踵を返すとお店に向かって歩き出した。
「ふふっ。しょうがないわねぇ。梢、行こ。」
「はい。」
綺麗に微笑む遥さんに手を繋がれて引かれながら歩いていく。
私はこの二人が大好きだ。
何気ない会話をしている時も…お互いを見つめている時も…幸せそうな空気に包まれてそこに二人がいてくれるだけで…そんな二人を見ているだけで私は幸せになれる…。
私が遥さんに初めて会ったのは紛れもなく、深海さんが初めて私を改まった感じで誘ってくれた日だった。
『心配するな。二人きりじゃない』そう言って連れて来てくれたお店の個室に待っていたのが遥さんだった。
遥さんは実はウチの会社の社員だったそうだ。
二人は同期入社で、研修期間中に同じグループになり仲良くなった。
研修期間を終えて遥さんが配属されたのは、六階にある管理部門 人事部。
管理部門には他に総務部と、経理部営業経理課、経理部財務課があり、断然女子社員の方が多いフロアーだ。
ここのフロアーには強力なお局様がいたり、女子社員が多いせいか独特な空気が流れており、新人は必ずと言っていいほどイジメの対象にされる。
その年の六階には遥さんと経理部営業経理課に女性が一人配属されたそうだが、新入社員の中でも遥さんがスバ抜けて綺麗で人気を集めていたので、イジメの対象にされてしまった。
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