第1章

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確かに営業部門の本部長もお局様も酷いとは思うけど、管理部門ほどではないし、三階は男性社員の方が多いから遥さんが経験したようなイジメには遭っていない。 それ以前に“貞子”には関わりたくないと思っているんじゃないかな。 店員さんに案内された個室に落ち着き、注文したものが並んでからはいつものように和やかに過ごす。 正面に座る二人の夫婦漫才のような会話を楽しみながら飲んで食べてのこの時間が、月一回の“お楽しみの日”になっているのだ。 二人は私を妹のように可愛がってくれていて、初めの頃はその扱いに戸惑いもあったけれど、今となってはそれは兄も姉もいない私には取ってとても嬉しい状況で…。 誰にも甘えず生きてきた今までの人生の中で、味わえなかった満足感が私を包む。 「それにしてもさぁ、お前に来るイレギュラーな仕事、何とかしたいよなぁ。」 アルコールでほんのりと頬を赤らめた深海さんが、突然私の方を見てそんなことを言い出した。 「何?まだ相変わらず他のチームの仕事しちゃってるわけ?」 驚いた顔をした遥さんが眉をしかめて此方を見てくる。 「そうなんだよ。二課と三課は何故かそういうとこが弛んでるんだよなぁ。課内で片付けられない仕事が出てくると何でも梢に頼んでくる。普段は梢のことなんか眼中にないって態度のくせして、そういう時だけ頼って来るんだよ。」 「…何なのよ、それ。」 面白くなさそうな顔でボヤく深海さんに同じような顔を向けている遥さん。 「課長もお局様も適当に仕事してて、大きな問題に発展しなけりゃいいやぁって感じだし…本部長は売上とかの数字しか見てなくて、其処までの行程云々なんかどうでもいい感じだし…。まぁ、あの人は自分の体裁しか心配してないんだろうけど。もっとひとつひとつの仕事に対して責任感持って欲しいんだよなぁ…。」 「大和がみんなに言ってやればいいじゃない!」 「一課の課長を差し置いて俺が言うの?俺なんかが言ったところで素直に聞くようなお局様たちじゃないって。“アンタには関係ない”って逆に文句言われるだけだ。梢も頼まれると遣っちゃうしさ…っていうか二課と三課の仕事を出来ちゃうからなぁ。そこも問題っちゃあ、問題だよなぁ。」 「梢は人が良すぎるのよ!嫌なことは嫌だって断らないと!その本人のためにもならないのよ?」
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