第1章

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それしか出来なかったことを申し訳ないと思っていたようだ。 それでも当時の二人には十分救いだったわけで、川瀬課長に対して心を許し懐いているんだとわかる。 「でも私が辞めてからも社内のセクハラ・パワハラは相変わらずみたいですね…。」 遥さんが話を続けると川瀬課長は顔をしかめて話始めた。 「そうなんだよ。問題の奴等が誰も辞めずにのさばってるから何処の部署も変わってない。もしかしたら報告が上がって来てないだけで、もっと酷くなってる可能性だってある。」 こういう問題は闇に葬られて露呈しにくいものなんだと思う。 声高々に訴えてもイジメが酷くなるだけでいい方向に進むとも思えないし、そうなると遣られていても我慢してみんな口を閉ざしてしまうんだろう。 今でも退職者が後を絶たない現状を見る限り、イジメは減っていないと思うけど…。 「実は俺は、前から社長に直にこの件を訴えてるんだ。」 その言葉に遥さんと私はとても驚いて目を見開き、川瀬課長を凝視した。 でも深海さんは黙って聞いているだけで…課長から聞いて知っていたのかもしれない…。 「お前たちも知ってるだろうけど…昔直接、社長にセクハラ・パワハラを訴えて辞めた人がいるから、社長たちもこういうことがあったっていうのは把握してるんだ。けどその時の確かな証拠がなかったから、それ以上問題に出来なかったそうだ。」 「え…証拠がなかったって…社長はその時に本人たちに問い質さなかったんですか?!」 「その訴えがあった時に当事者たちに聞き取りはしたらしいんだが、アイツらは『そんなわけない。自意識過剰の被害妄想だ』って言って退けたようでな…他に“被害届”みたいなのがあれば違ったんだろうけど、出てこないから動けなかったって言ってた。」 …酷すぎる…やっぱり上の方で揉み消されてるんだ…。 せっかく訴えた人がいたのに何にもならなかったなんて…。 「その訴えた人って何処の部署だったんですか?」 遥さんと川瀬課長の会話は続く。 「総務部だった。俺の三つ上の“増田玲奈”って人で…芯が強くて物事をハッキリ言う人だったんだけど…俺が入社した年の夏に辞めた。その時には既に“アノ”本部長もお局様もいたからな。その人も三年間頑張ったけど限界だったんだろうなぁ。」
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