第1章

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今日も私は相変わらずパソコンに向かい、ひたすらカタカタと指を動かす。 この会社に入ってから、それは毎日変わらない。 周りがどんなに慌ただしく動いていても、私だけは毎日この調子だ。 朝起きて簡単な朝食を取り、5分でメイクを済ませ、地味なスーツに着替えて会社に向かう。 戦闘服に色気なんて必要ない。 どうせ普段は誰も私を視界に入れていないんだから。 みんなの視界に入る時は、いつもこんな時だ。 「ヤベ!コレ、明日出張に持って行く資料だったんだ!」 「…蓑田くん、私は無理よ。課長に頼まれてる会議資料、今日中に仕上げなきゃならないんだから。」 「えー!高木さん、先に言わないでくださいよー。じゃあ、飯塚さぁ」 「私も無理でーす。阪本さんに頼まれてるのがあるんでぇ。」 「蓑田。急ぎなら“貞子”に頼めよ。アイツなら問題なくやってくれるぞ?」 後ろから聞こえて来た会話に、パソコンに向かう私は手を動かしながら眉を潜める。 このくらいの表情の変化は誰にも気付かれないとわかっているので堂々と顔に出す。 隣のデスクの深海大和(フカミヤマト)主任は、私の顔を見なくてもどんな顔をしているか気付いているだろうけど…。 その深海主任もどうやら同じように会話を聞いていたようで、僅かに視線を此方に向けてきたようだ。 後ろで繰り広げられている会話は突っ込みどころが有りすぎる。 まず第一に、出張前日の朝の時点で準備が整っていないこと。 次に、蓑田さんのアシスタントの高木さん(この部署のお局2号)が、頭から自分の仕事を調整しようとしていないこと。 その次に、代わりに何とかしてあげようと考えもしない飯塚さんの言動。 そして一番の問題は、違うチームの人間の“貞子”に仕事を振れと、平気で発言する蓑田さんの先輩の児嶋さん。 いろいろ間違っていることだらけなのに誰も突っ込もうとしないのは何故なんだろう。 こんなことが許されてしまうこの部署にも、この会社自体にも疑問だらけだ。 そして「それが一番いいな」と話が纏まってしまうことも、私には全然理解出来ない。 社会人二年目でまだまだペーペーの私には、それについて何か言うつもりも権利もないけれど…。 いつからこの会社はこんな感じなのだろうか。 疑問に思って進言する者はいなかったんだろうか。 …あの本部長が仕切っている時点で無駄だと思っているのか…。
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