第1章

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知らず知らずのうちに川瀬課長以外の私たちは険しい顔付きになってしまっていた。 「…直接って、その人はどうやって社長に?」 「社長室に乗り込んで退職届を叩き付けて、今までに遣られたことをぶちまけたって。社長に取っては寝耳に水な話だったから、唖然として聞いてるしかなかったって言ってた。『このまま変わらなかったら、いずれこの会社は駄目になりますよ!』って言われたらしい。一般社員にいきなりそんなこと言われたから面食らったって苦笑いしてた。」 凄い人だ…。 いきなり社長室に乗り込むなんて余程鬱憤が溜まっていたんだろうけど、一方でこの会社のことは好きだったのかもしれない。 もしかしてその人は他にも被害者を知っていて、誰も動かない中、何とか出来ないかと一人で戦っていたんじゃないだろうか…。 私にはそんな行動は絶対に無理だけど、大好きな雑貨を扱っているこの会社を良くしたいっていう気持ちならよくわかる。 その人も雑貨が好きだったのかなぁ…。 「その時には既に大阪の不正の件で一部の人間が動き出してる所だったから、社長も上層部もバタバタしててこっちの件をどうにも出来なかったらしい。」 「…不正?」 ずっと黙っていた私の口から心の声が漏れてしまった。 みんなの視線が一斉に此方に向けられ、声が漏れていたことに気付き慌てて手で口を塞いだ。 「あぁ、梢には話したことなかったな。大阪支社で多額の不正が発覚して、一時期社内は大騒ぎだったんだ。俺たちが入社する前に発覚したことなんだけどな。」 深海さんが眉を下げて口を開いた。 大阪支社…西日本の幾つかのオフィスを纏めている所だ。 輸入雑貨が話題になり、ウチの会社の商品を扱いたいという問い合わせが全国から集中して、東京本社だけではカバー出来なくなって大阪支社が出来たことは知っている。 西日本にオフィスを構える京都・神戸・福岡を纏めているのが大阪支社。 東日本の札幌・仙台・横浜オフィスを纏めているのが東京本社だ。 各オフィスの営業状況から経理に至るまでを本・支社がそれぞれに纏め、最終的に本社の経理部営業経理課やシステム部等がデータ化し纏めていると研修時代に聞いていた。 顧客に寄り添うフォローが出来るようにと細分化されたと説明されて、思っていたより大きな会社だったんだなと改めて驚いたのと同時に、“顧客に寄り添う”という点に感動を覚えたのを思い出す。
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