第1章

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その大阪支社で多額の不正なんて、会社存続を揺るがす程の一大事だったのではないかと思い、背筋がゾクッと寒くなった。 「売上に対して経費が掛かりすぎるだとか不明な点も幾つもあって、架空請求書やらがあることもわかってな。支社の中に入り込んで調査しないと全容が見えないってことになって、本社から精鋭部隊を送り込んだんだ。」 「精鋭部隊、ですか?」 川瀬課長が当時の話を聞かせてくれる。 「ん。当時の人事部課長と、当時の経理部課長、それと遣り手だと有名だった営業企画部主任。この三人が大阪支社に乗り込んで設立当時からの全部を引っくり返して調べまくったら、有り得ないくらいに次々判明して…結果、懲戒解雇処分が三名、減給処分が十八名。」 「ッ!!」 「『大阪を完全に立て直して軌道に乗せてくれ』って社長命令が出て、精鋭部隊で行った三人はそのまま大阪支社に残ったんだ。で、今に至る。」 そんな一大事だったのなら、証拠もない本社の問題が後回しにされたのは仕方がないって思わざるを得ないのか…。 「…それが何年前の話なんですか?」 「えっと、精鋭部隊が行ったのは俺が二年目の9月だったから…五年半前、か?」 「え?!…二年目って…川瀬課長って七年目?!ですか?!」 「ぶはっ。梢、川瀬さんのこと幾つだと思ってたんだよ。」 本題とは全く関係ない所の驚きを口に出してしまって恥ずかしくなってしまい、俯くしかなかった。 「あ、あの、すみません…社会人になったら人の年齢が全然わからなくなってしまって…。」 小声でゴニョゴニョと言い訳を言ってみたりしたけれど、 「ククッ。面白いな~、志築さん。そうだよ。俺はこの二人の二つ上の28歳だ。もっと年取ってると思ったか?」 「…いえいえいえ。そんなことは…。」 とにかく否定しようと突き出した両手と頭を横に振っていたらまた笑われてしまった。 それよりも気になっているのは…。 「と言うことは…社長室に乗り込んだ方は今31歳ってことですね…。社長は社内のセクハラ・パワハラを知っていながら、何もせず少なくても6年間放置していたってことですか?」 「いや。俺が去年課長になって直ぐに社長にこの件を話に行ったんだ。このままでは絶対に不味いと思ったし、課長になってやっと話に行ける立場になれたかなって思ったから。」
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