第1章

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川瀬課長は“一般社員の話では説得力がない”“耳を傾けてくれないかもしれない”と考え、自分に役職がつくまで待っていた? 確かに一般社員からよりも役職者からの話の方が印象が違うかもしれないけど…。 「社長は大阪が落ち着いて来たら本社の問題に取り組もうと考えていたらしいよ。人を動かしてこの件を調べ始めようってね。副社長たちとも既に話し合いを済まされていた。ただ、誰にこの件を調べさせるか人選が難しいって話になり、検討段階に入っていたらしい。」 そうか…信用出来る人間を動かそうとしたけれど、誰が信用出来る人間なのかが上層部ではわからなかったんだ…。 増田さんっていう先輩が社長に明かした話の中に、下を纏める立場の管理部門本部長と総務部のお局様の名前はきっと出てきたはずだから…。 重要ポストにいる人物を疑わなければならない状況にあるため、まず信用出来る人間を探し出す作業自体が困難だったわけだ。 そこに川瀬課長がちょうど進言しに行ったことは、上層部の人たちに取って願ってもないことだったのかもしれない。 「それからは社長の命(メイ)で、裏でこっそり被害者探しを始めたんだ。もちろん一人では無理だから信用出来る人間を集めてチームを作れって言われて…俺は真っ先に深海に声を掛けた。この問題を一番身近に感じてた人間だったからな。」 初めて知った事実に深海さんに視線を移すと、遥さんも隣の深海さんを目を見開いて見つめている。 遥さんにも内緒で動いていたんだ…。 「今とりあえず俺ら世代の信用出来る人間何人かに声を掛けて協力してもらってる。それと、既に退職してる人の退職理由に辺りをつけて連絡取り始めてるんだけど、なかなか…。 いつからこの問題が始まってるのか俺もよくわかんないから手探り状態なんだけど…でな?仁科。お前の被害状況も詳しく教えて欲しいんだ。今更思い出すのは嫌だろうけど、一件でも多く証拠として具体的な話が必要なんだ。」 遥さんは不安げに瞳を揺らして川瀬課長を見つめ返している。 パワハラはまだいいとしてもセクハラを思い出すことは、苦痛を伴うのかもしれない。 するとテーブルに乗せられている遥さんの手を深海さんがギュッと握り、遥さんを見つめて頷いた。 大丈夫だからと安心させているように…束の間見つめ合った後、戸惑いながらも遥さんは頷いた。
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