第1章

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黒・濃紺・グレーしか私のクローゼットには入っていない。 この髪型でこの色の服装…周りが避けたがるのは当然だ。 入社当時同期からは遠慮のない言葉を投げつけられたけれど、そんな言葉は全てスルーした。 見るからに意地悪そうな先輩女子社員たちからも辛辣な言葉をぶつけられたけれど、それでも何も変えなかった。 これが“私”…周りの声なんて気にしない。 不快な思いをするのが嫌なら、私を見なければいい。 近寄らなければいい。 話し掛けなければいい。 そして周りから何も言われなくなって、やっと落ち着いた状態が今だ。 営業アシスタントというポジションの私は一日中パソコンの前にいるわけで、客前に出ることもない。 しっかり仕事が出来ていればどんな見掛けでも問題ない筈だ。 勝手にそう理由付けて、周りを慣れさせてしまったという感じだけど…。 私にいろいろ言って来ていた人たちの半分以上がもう退職していなくなったというのもあるけれど、居心地悪いと感じていた時期は過ぎ去った。 さっきのように納得いかない仕事を振られたりはしても、好きな雑貨と好きになった仕事に携われる今の状態が私は気に入っている。 だからこんな風にいい加減な仕事をする人を私は許せない。 優秀なバイヤーたちが足を使って掻き集めてくれたたくさんの雑貨を、大事に扱えない人が許せないんだ。 それなら…私に出来ることがあるなら、可能な限り引き受ける。 大好きな雑貨を取引先やエンドユーザーの手元に届けたいから、そのためなら私は頑張れるんだ。 今の私はこの仕事と大好きな雑貨さえあればいいと思ってる。 他には何もいらない。 これが私の存在意義なのかも…なんて考えてみたりするくらいだ。 百貨店がある場所に合わせた品揃えや雑貨に合わせた展開案をいろいろ考えてみて、3パターンの提案をし、蓑田さんに確認を取った。 蓑田さんはろくに確認もせず、「それでいいから資料作っておいて」と適当な返事を残してあっという間に外出してしまった。 こういうことが罷り通ってしまうこの会社ってどうなんだ?と思ってしまう。 けれどそんなことを私が言ったところで何も変わらないのはわかっているので、それ以上考えることはしない。 どうせ変わらない…。 この会社にはおかしいことがありすぎるのに、今現在変わっていないということは何か言っても無駄なんだろう。
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