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翌日出来上がった資料を持った蓑田さんは、予定通り出張に出掛けたようだ。
打ち合わせが上手くいくといいんだけど…。
あとはアシスタントの高木さんの仕事だから私には関係ないけどね。
…私の日常は変わらない。
深海主任が抱えている案件のフォローの他に、新年度に向けて休眠顧客をピックアップし、リストを作って過去データを纏めている。
手が空いている2月のうちにこういった作業をしておかないと、年度末である来月に入ったらこんな時間は取れなくなる。
二年目が終わろうとしている今だからこそ、業務全体の流れが読めるようになって出来るようになった仕事だ。
私、志築梢(シヅキコズエ)は大学を卒業し、大好きな輸入雑貨に携わりたくてこの会社“トレジャー インターナショナル”に入社した。
二ヶ月の研修期間を経て配属されたのが、営業部門 営業企画部1課の営業アシスタント。
指導係になった深海主任にお世話になり、仕事のノウハウを教え込まれて早くも三年目に入ろうとしている。
私は小さい頃から雑貨が大好きで、その雑貨に囲まれて過ごしたいと考え、大学二年から大学近くの雑貨屋さんでアルバイトをしていた。
一年の時に周りに距離を置くようになって時間を持て余し、アルバイトでもしようかなと思ったのがきっかけだ。
雑貨屋さんの仕事は想像以上に私の気持ちを上げてくれて、“卒業後も雑貨に関わる仕事をしていきたい”と自然と考えるようになった。
けれど就職活動は思っていた以上に厳しく、どんどん疲れていく私を見兼ねたのか一番近くで見守ってくれていた雑貨屋さんの店長と奥さんが、「このままウチで社員として雇ってもいい」と言ってくれた。
その言葉をもらったことで肩の力がスッと抜け、楽な気持ちで試験を受けられて内定が取れたのが“トレジャー インターナショナル”だった。
内定が出たことを報告すると店長と奥さんは心から喜んでくれて、「辛くなったら実家だと思っていつでも此処に来なさい」と本当の娘のように送り出してくれた。
人の温かさを教えてくれた店長と奥さんには本当に感謝している。
アルバイトを始めた頃には既に心は歪んでいて“貞子”になっていたのに、それでも見捨てず可愛がってくれた。
あの雑貨屋さんと店長さん夫婦に巡り会わなかったら、私はもっと荒んだ生活を送っていただろう。
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