第22章

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「そっか。催事じゃ出る数読めないもんね。まして新商品はね…じゃあ在庫に余裕が出来るってことか。やった!それならちょっと社販で買わせて貰おうかな。その新商品も試してみたいし、この前のジャムもまた食べたいし。」 「お、いいねぇ!だったら俺も欲しいのあるから一緒に頼んどくよ。胡桃んちに発送でいいか?」 「うん!そうして!また作ってあげるね!」 そう答えた胡桃の表情が…更に柔くなって女の顔になり隣の人に微笑んでいて… その人も目を細めて愛しそうに胡桃を見つめ優しく微笑むと、無意識になのか胡桃の頭を撫でている。 呆けながらもずっとそのやり取りを見ていた私の方がとても恥ずかしくなってしまって、ドキドキと早まってしまった鼓動を落ち着かせるように胸の辺りを押さえながらやっとの思いで口を開く。 「……あのぉ…。」 胡桃の頭を撫でている格好のままのその人と撫でられている胡桃にボソッと呟いた私の声は届いたらしく、ハッとした顔をして同時に此方に振り向いた。 私と視線を合わせた胡桃はみるみるうちに顔を赤らめて目を泳がせ始めた。 明らかにアルコールのせいではないその赤みは耳や首筋にまであっという間に広がり、完全に私の存在を忘れていたことを証明している。 隣の人も仕事の話をしているうちにすっかり私のことを視界から除外していたようで、苦笑いしながら私と胡桃を交互に見ている。 「あー…志築ごめん。こっちだけで話しちゃってたな。あれ、あ?…お前、もしかしてまだ話してないのか?」 謝りの言葉を私に掛けながらも私の表情から違和感を感じたのか、隣の胡桃を覗き込むようにして問い掛けている。 それにコクコクと頷き赤くなった顔を隠すように少し俯く胡桃は、アシスタントメンバーの中でいつも喋りまくっている人とはすっかり別人だ。 「なんだよ。もう話したのかと思ったのに」と言葉を溢したその人は私の方に向き直ると改まった感じに居住まいを正し、「もう気付いたかもしれないけど、俺ら付き合ってんだ」とハッキリした口調で言い切ってニッと悪戯っ子のような顔に変えた。 「……ぇ……誰が?」 いや、なんとなく気付いたような気はするけど…でもイマイチ実感が湧かないというか何て言うか… 無意識に私の口からそんな言葉が漏れていた。
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