第22章

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「あれ?気付いてない?俺と胡桃がだよ」と笑顔で言われて、やっぱりそうなのかと思いながら、それでも私の口は「えー?!」と驚きの声を発していた。 「あはは。志築って意外と鈍感?」 「いや、そうじゃなくて……ホントに?!」 目の前で豪快に笑い声を上げて愉しそうに胡桃と私を見ているのは、三課所属で私たちの同期の酒居くん。 そりゃあ今の甘さを含んだやり取りを見ていれば誰だって気付くに決まっていると思うけど、それでも普段の胡桃からはそんな雰囲気を全然感じていなかったのだから信じられない私の気持ちも察して欲しい。 それから間もなく現れた店員さんに注文を済ませて、程無くして届いたジョッキを掲げて改めて乾杯した。 余程恥ずかしいのか大人しくなってしまった胡桃の代わりに酒居くんが事の成り行きを教えてくれた。 今年の春の歓迎会の時。 私はいろんなことでバタバタしていたから二次会で切り上げてこっそり彼と帰ってしまったので全然知らなかったことだけど、あの日 三次会まで盛り上がったメンバーの中に二人も残っていたようで。 その三次会が終わっても飲み足りなかった二課の蓑田さんが声を掛け、営業企画部と販促部の数人と一緒に胡桃と酒居くんは新人たちを連れて四次会でカラオケに流れたんだそうだ。 さすがにそこでは次々に潰れて寝てしまう人が出てきて自由解散になったらしいが、結構酔っていた胡桃を心配した酒居くんがタクシーで送ることになったらしい。 しかし途中で胡桃の気分が悪くなり、胡桃のマンションより手前にある酒居くんのマンションで介抱することに。 暫くして胡桃の体調は落ち着いたけれど「もう遅いから泊まっていけば?」と酒居くんに促され、同期という気易さもあり、何も気にすることなく胡桃もそれに従った。 酒居くんに借りた服に着替え、二人は眠気が襲って来るまで他愛ない話をしていたが、そうしているうちに自然な流れでそのまま…。 「お互い大人だし、酔ってたから…って流すヤツもいるかもしれないけど、俺は逆に、その夜にコイツの知らなかった顔を見せられて、手放したくないって気持ちになったっていうかさ…。」 酒居くんは空腹を満たすため箸を動かし続けながら器用に話も進めていて、私はその様を黙って見続けていた。
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