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どれくらい経ったのか…大きく息を吐き出した音で飛ばしていた思考から引き戻され胡桃に焦点を合わせると、さっきよりも僅かに目に力が戻ったような気がする。
もう一度深呼吸をした胡桃は私に視線を合わせると、意を決したように口を開いた。
「ごめん……私と裕紀の始まりを知ったら…真面目な梢には、軽蔑されるんじゃないかって思ったら…怖くなって…。」
………へ?……二人の始まり?
「……身体から……付き合ってもいないうちに寝るような私たちのことを…梢は受け入れないんじゃないかって……そんな私を嫌いになるんじゃないかって……そう思ったら…言えなかった…。」
胡桃の瞳からポロポロと落ちていく雫を見ながら、苦しそうに吐き出された言葉が何故か胸にじわりと広がる。
そうか…そんな不安をずっと抱えていたのか…。
"真面目な私"なんて、そんなことないのに…。
私はただの臆病者で、仕事しか信じられないような生き方をしていただけだったのに…。
想像もしていなかった胡桃の苦しみを知り、それが私の胸をチクチクと刺激し、鼻の奥がツンとした。
「胡桃…ごめんね……毎日顔を合わせていたのに…気付いてあげられなくてごめん…。」
「……梢…。」
「…軽蔑なんてしないよ。だって始まりはどうであれ、今は幸せなんでしょ?それがあったから大切なものに気付けたんでしょ?」
顔をくしゃっと歪めてコクンと頷いた胡桃に、思ったままを伝える。
「…確かに…昔の私だったらそう思ったかもしれない。もしくは無関心で聞き流して終わってたかもね……でもね、今の私はそうは思わないよ。」
泣き顔の胡桃と、彼女の背中を擦り続けている酒居くんが此方を見つめてくる。
「誰とも接触を持たなかった頃の私だったらどうだったかな…それから変わって…いろんな人に関わって話をするようになって、いろんなことに気付けるようになったの……その中に仲良くさせてもらってる人たちがいてね。彼女たちの生き方を見て聞いて、教えてもらったことがあるんだ。」
「「…………。」」
「『幸せの形なんて人それぞれ違うんだから、誰かと比べるんじゃなくて自分たちが納得出来ていればいいのよ。いろんな形があって当たり前。思い合える人と一緒にいられることが何よりも大切で、一番の宝物になるんだから。』 って…。」
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