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「蒼さん……。」
一度も伝えた事のない言葉が汲み上げて来たけれど、喉が詰まって音にならない。
胸の中に生まれた熱がどんどんと身体中に巡っていって、それを阻んでいる感じだ。
やっと出した彼の名前も掠れていてその先の言葉が続けられず、縋るように腕を伸ばして目の前の人の体温を求めた。
触れたくなる人…
触れられたくなる人…
愛しい体温を感じたくて伸ばした腕を首に巻き付け引き寄せた。
私の意を組んだのかフッと息を漏らした彼は身体を倒して顔を近づけ優しく甘く囁いた。
「梢…愛してるよ。」
私が続けられない言葉を難なく口にした彼は、次はお前だというように僅かに口端を上げ見つめている。
見つめて来る瞳も触れている体温も熱く、その熱だけでクラクラしてくる。
熱に浮かされたようになった私の口が漸く開き、
「………蒼さん……愛しています。」
と言葉にしたと同時に目尻から自然に涙が溢れ落ちた。
それを唇で掬い取った彼はニヤリと意地悪な笑みを浮かべたかと思うと「両想いだな」なんてこの人に似合わないような呟きを落とし、そのまま何も言わせないと言うように私の唇を塞いできた。
今日は初めから荒々しい。
唇も舌も指もいつもより熱く感じる。
アルコールが入っている私が自分よりも熱く感じたその温もりに、身体の芯が痺れを感じた。
キスがこんなに感じるものだなんて、この人に出会うまでは知らなかった。
仕事中は鬼のように冷たい言葉を吐き出すことも多いのに…。
プライベートでは私を甘やかすような優しい言葉を掛けてくれるのに…。
スイッチの入った彼の唇は息もつかせぬ程に私を追い詰め、意思を持った舌は私の弱いところを攻めまくる。
たまらない気持ちになり彼の頭を掻き抱くようにして、もっと…と求めてしまう私も、今日はなんだかおかしいのかもしれない。
頭を撫でていた彼の手が耳のそばを通り首筋をなぞってきた頃には、背中がゾクゾクとして鼻に掛かる甘い声を洩らしていた。
リップ音を鳴らして彼の唇が膨らみに下りて刺激を強くした頃には息がもう上がっていた。
「……梢……。」
続く刺激に抗えず身体を捩っていると不意に名前を呼ばれ、ゆっくりと瞼を上げ目線をおろしてみれば…
淡いオレンジの灯りに照らされる中に妖艶に輝く瞳と怪しく蠢く彼の舌が視界に映り、いやぁ…と声を上げ直ぐに目を閉じてしまった。
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