第22章

35/35
前へ
/813ページ
次へ
まんまと彼の策略に嵌まってしまった私はあらゆる感覚からの刺激を与えられてしまい、身体を震わせ、背中を逸らしてしまったのは仕方がないと思う。 目を瞑り視界を閉ざしても聴覚を刺激する音と、身体中を這い廻る感触と熱が私をどこまでも狂わせていく。 彼の熱く大きい想いを刻まれる頃には私の思考は既にどこかに飛ばされており、ただただ快感の渦に飲み込まれていた。 そんな時でも彼からは意地悪な言葉を落とされる。 「…はぁ……俺をもっと感じろ………もっと欲しがれ………。」 こんなに感じておかしくなっているのにこれ以上を求めるなんて… 頭にそう過って口を開いても言葉なんて出せる状態じゃなくて、出てくるのは彼にしか聞かせられない切なさを含んだ甘い声ばかり。 薄く瞼を開いた先に熱い息を吐き苦しそうな表情を見つけ、この人にこんな表情をさせているのは自分なのだと自覚すると、そんなことさえ快感に繋がって更に自分を追い込んでしまう。 彼の熱に散々狂わされたその夜も、私がぐったり動けなくなるまで離してはもらえなかった…。 「……早く俺だけのものにしてぇのになぁ……まだ先は長ぇーなぁ…。」 四肢も動かせぬくらい脱力した私を引き締まった胸に閉じ込めた彼が、大きな手のひらで優しく髪を撫でながら独り言のように呟く。 微睡んでいる私の耳にそれは届き、飛びかけている意識の中でその事を考える。 私たちのこれからのことは、私の家族の問題がクリアにならない限り進められない状態だ。 想像していたよりも遥かに大きなものに発展してしまった父親の件と母親の件は、悔しいが私に出来ることなんてないに等しい。 その件に関してもこの人に甘えるしかない状態で嫌になってしまう。 果たして全て落ち着くのがいつ頃になるのか、今の時点ではその見通しさえつかない。 この人や周りのいろんな人たちを待たせてしまっている状況に心苦しさしか感じないけれど、ずっと私の中に燻り続けたものを払拭させたいというこの人の想いは何よりも嬉しい。 こんなに想ってもらって私はきちんと返せるのだろうか、と思考を巡らせているうちに心地よい睡魔が襲ってきていつの間にか意識を手放していた。 「何があっても絶対離さないからな。」 その言葉は私の耳に届くことはなかった。
/813ページ

最初のコメントを投稿しよう!

569人が本棚に入れています
本棚に追加