第1章

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その間に私の陰口や嫌味を言っていた人たちがセクハラ・パワハラに耐えきれず次々に退職していき、私は問題人物を上手くかわしながら何とか深海主任の期待通りに生き抜いている最中だ。 まぁ、私は“貞子”効果もあってか、あまり相手にされていないようで、他の女子社員たちとは扱われ方が違うけどね。 年度末の3月に入った途端、やっぱり慌ただしくなった社内。 新年度に向けて顧客からの注文がかなり増えているし、取り扱い商品の見直し等で営業の人たちも外出や電話が多い。 去年は社会人になって初めて経験する年度末だったから自分のことで精一杯で周りの人に気を配っている余裕もなかったけれど、 去年の年度末もこんなにバタバタしていたっけ?と思うほど、慌ただしかった。 しかしそれだけではない。 通常業務に加えて“会議”という言葉を多く耳にしているのは気のせいではないだろう。 役員会議…部長会議…営業部門会議…営業企画部内会議… ほとんどは役職のついた人たちばかりの集まりだけど、会議が終わってフロアーに戻って来る人たちの表情が険しく感じる。 しかしフロアーに戻って来て、会議内容を口に出す人は一人もいない。 何かが起きている? 何かが起ころうとしている? その妙な空気を感じているのは私だけではなく他の社員たちも何となく気にしているようで、役職者たちの表情をそれとなく伺っているような気がする。 営業企画部内会議に出ていた深海主任が席に戻って来た時も同じような状態だった。 パソコンに目を向けマウスに右手を乗せているけれど、思考は別の所に飛んでいるようでたまに溜め息が聞こえてくる。 何が話し合われているのか皆目検討が付かず、傍で見ている私はモヤモヤするばかりだった。 しかしそればかり考えているわけにいかない。 私はひたすら任されている通常業務を片付けていく。 そんな日々を送っていた週半ば。 隣でパソコンに向かっていた深海主任が不意に口を開いた。 「あ、忘れてた…お前今週の金曜、夜空いてるか?」 周りに聞こえないくらいの音量で話し掛けてくる深海主任。 その内容はほぼ月一回の割合で誘われる、私に取っては唯一の“お楽しみの日”だ。 「大丈夫です。ガラ空きです。」 「フッ。寂しい答えだなぁ。わかった。空けとけよ?」 ふふっ。何とでも言ってください!
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