3 逃げる、ただそれだけ

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部屋の外の様子を窺うと、母の骸の気配はしない。 私の部屋を出て階段を下りると、そのまま玄関に続く廊下だ。 階下を覗きこむと、その廊下に面した部屋の扉が開いていた。あそこはリビングだ。 時間を確認すると、まだ父もいそうな時間だった。 刺激になりそうな物音を避け、抜き足差し足で階段を下りる。 扉の陰に隠れながらリビングを確認すると、父が新聞を読んでいた。 いや、新聞を読んでいるような仕草をしているだけで、あれは生前の動きを繰り返しているだけなのかもしれない。 きっと父もゾンビウィルスにやられてしまっているはずだ。 私は玄関の靴置きにあるローファーを手に取り、素早く履こうとした。 次の瞬間、ぱさりと新聞が折れ、父の顔が見える。
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