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「うるせー…」
俺は弱々しく反論したが、既に顔はげんなりとしていた。
「疲れた…もうイヤだ…」
俺が地下迷宮に挑むのは、世界を救おうとかそんなご大層な理由ではない。
女という女は、俺を見ると頬を赤らめて盛りのついた猫のように寄ってくる。
これというのも、父親のせいだ。
冒険者だった父親は、地下三十六階のボスである夢魔の王を倒した勇者だった。
だが、夢魔の王は倒される寸前に俺の父親に呪いをかけた。
その呪いは父親本人でなく、その子供である俺に降りかかった。
「勇者様ー!」
「勇者様!私を妻にしてください!」
「勇者様、妻にするなら私を!」
女たちがきゃあきゃあ騒ぐ。
「うるせー!俺は…俺は…俺は『女』だぁ!!!」
俺の魂の叫び声が迷宮の監獄に響き渡る。
この呪いを解くには迷宮の底にいる大魔王を倒すしかない。
俺は肩で息をしながら涙目で、遠い先をにらみ付けた。
「くっそー、大魔王め!絶対に倒してやる!」
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