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おもわず顔を上げると、浅井はさっきよりさらに深く眉を寄せて自分を見た。
仁たちと別れたあと、近場にあった不動産屋で足を止めた。
店の外に貼ってあるチラシを眺めていたら、ちょうどタイミングよく出てきた店主と出くわして、 そのままなんだか店内に招き入れられたのだ。
制服での来店はさすがに不審がられたけど、向こうも商売。
部屋を探しているという言葉に、手近な物件をいろいろと見せてくれた。
「なんでって?」
「だから俺が訊いてるんだよ」
不機嫌そうな顔に見つめられて、堪らず肩を竦めた。
「だって、俺、家なき子よ?」
「・・・・」
家はすでに売家。
父親に親権があるといっても、実際は一緒に住むわけにはいかない。
まあ、住むつもりもないけど。
好きなところに住め、と言われて出てきたのだ。
金だけはある大人が言いそうなセリフだと思ったけど、とりあえず保証人にはなってくれるらしいから、 これからは一人での生活をしていかなければいけない。
いまのところ自分のものはいま父親が預かってくれているけど、正直、それも早々に引き取りたい。
それには、まず家を見つけなければいけない。
それに・・・・。
「・・・・ずっとここにいるわけにもいかないし、さ」
そう呟いて、小さく苦笑を洩らした。
ここは居心地がいい。
この人がいるというだけで、自分にとっては最高の場所。
あの保健室よりももっと、もっと、安らげる場所だ。
でも、それは勝手な理由だから。
いまの自分は、なにかを掴んで、そして、あの保健室で眠れれば、それだけで満足だから。
「なんでそうなるんだよ」
その言葉に首を傾げると、浅井は呆れたように深いため息を吐いた。
「ずっとここにいればいいだろ」
「え・・・・?」
「余ってる部屋だってあるし、出ていく必要なんてねえだろが」
当然のように言われて、おもわず眼を瞬かせた。
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