28人が本棚に入れています
本棚に追加
朝、窓から微かに差し込む日の光で眼が覚めた。
重い瞼で二度三度瞬きをし、隣のスペースを手で探った。
しかし、触れるものはなにもなく、手は滑らかなシーツの上を伝う。
それに気づいて、隣に顔を向けた。
昨日の夜は、たしかにここで眠っていた。
無意識なのか、少しでも離れると、それを拒むかのように、自分の身体に擦り寄ってくる。
その身体を、きつく、きつく抱きしめて眠ったはずだ。
弾かれたように、身体を起こした。
もしかして、また逃げ出したのだろうか。
もっと、もっと、遠くへ。
自分の手の届かないところまで。
そこまで考えて、堪らず舌打ちをした。
「・・・・冗談じゃねえ」
そんなことは、絶対にさせない。
腕の中で触れた燈路の熱と、零れる涙。
その感触の残る手の平をぎゅっと握り締めて、ベッドから片足を下ろした瞬間、少しだけ開いていた寝室のドアが僅かに動いた。
「あれ?起きたの?」
「・・・・」
タオルで髪を拭きながらひょっこりと顔を覗かせた燈路を見て、おもわず固まった。
「あ、勝手に風呂借りたから。つーか、俺すごく汗臭くなかった? アンタよくあんな身体抱いたね」
ケラケラと笑う燈路に、浅井は盛大なため息を吐いて、そのままベッドに後ろ向きに倒れこんだ。
「なんかあった?」
「・・・・なんでもねーよ」
手で顔を扇ぎながら、燈路が不思議そうに首を傾げた。
バカバカしい。
どうやら自分は、相当焦ってるらしい。
「もしかして、また俺がいなくなったと思った?」
いつの間に側にきたのか、燈路がベッドに寝転ぶ自分を見下ろして、にやりとした笑みを浮かべた。
「・・・・煩えよ」
「アンタ、結構かわいいね」
そう言いながら、燈路が僅かに腰を屈めた。
その瞬間、燈路の濡れた髪から落ちた水滴が頬を掠める。
それに気をとられてる隙に、一瞬だけ唇が触れた。
昨日とは違う、あたたかい唇だ。
「アンタも入ってくれば?俺の臭いが染みついてそう」
そう笑って、燈路は身を翻した。
鼻歌混じりにキッチンへと向かう背中を見て、おもわず安堵のため息が洩れた。
最初のコメントを投稿しよう!