28人が本棚に入れています
本棚に追加
「訊いてもいいか?」
食後のコーヒーを飲みながら浅井は静かに口を開いた。
その言葉に、浅井の煙草をくすねようとテーブルに手を伸ばしていた燈路が動きを止めて顔を上げる。
側にあったライターを放り投げると、燈路はうれしそうに煙草に火をつけた。
バスルームから出たあと、いつの間にか用意されていた朝食を食べた。
賞味期限ギリギリの食パンと牛乳と卵で作ったらしいフレンチトーストと、あることすら忘れていたコンソメとワカメのスープ。
ほぼ空に近い冷蔵庫の中身でよく作ったな、と感心して言うと、 燈路は料理は意外と得意なんだと笑った。
「なに?」
ゆっくりと煙を吐き出しながら、燈路が小さく首を傾げた。
訊いていいものだろうか。
自分から言い出したクセに、その先の言葉に詰まる。
誤魔化すかのようにコーヒーを口に含んだ。
視線を向けると、燈路はやっぱり不思議そうに首を傾げる。
小さく息を吐いて、躊躇いがちに口を開いた。
「おまえ、これからどうするんだ?」
「どうって?」
「親・・・・離婚したんだろ?」
その言葉に、一瞬きょとんとした表情を見せた燈路が、すぐに小さく吹き出した。
それにおもわず眉を寄せると、燈路は灰皿に灰を落としながら笑った。
「言いにくそうにするからなんの話かと思ったら、それかよ」
「笑いごとじゃねえだろが・・・・」
呆れたように小さく息を吐くと、燈路は小さく肩を竦めた。
「俺にとってはその程度のことだよ。あの人たちの離婚は時間の問題だったし」
「・・・・」
「ずっと前からお互い他に相手がいたんだよ。母親も週に一、二回帰ってくるくらいだったし、 親父なんて、一年に数回顔見ればいいほうだったしね」
そう言って、燈路はへらりと笑った。
煙草に手を伸ばすと、それに気づいた燈路が手に持っていたライターをこちらに向かって放り投げた。
煙草を咥えたまま、キャッチした安っぽいライターを指でなぞる。
外は快晴。
マンションの前を通り過ぎていく子どものはしゃぎ声。
徐々に遠くなっていくその声はほどなくして消えて、また、静寂が訪れる。
カチカチとライターの火をつけたり消したりを繰り返して、浅井は手を止めた。
最初のコメントを投稿しよう!