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「・・・・話はしたのか?」
「ん?」
テーブルに頬杖をついていた燈路が僅かに視線を上げた。
ライターを手の中で転がしながら、浅井は躊躇いがちに口を開いた。
「だから、両親と」
ぼそりと呟いた言葉に、燈路は小さく笑った。
「したよ。親父だけだけど。母親は俺が学校に行ってる間に、荷物まとめて出て行ったみたい。 さすがに俺には会いにくかったみたいだな」
「・・・・父親はなんて?」
「離婚したから、って。で、大学を卒業したら自分の会社に入れって。息子は俺一人だから、 会社を継ぐのは俺しかいないんだってさ」
「なるほど、な」
「迷惑な話だよ。いままで視界にも入れようとしなかったクセに、 都合のいいときだけ、息子として受け入れようとするなんて・・・・」
そう言って、燈路は苦虫を潰したように顔を歪めて、小さく息を吐いた。
「それで、了解したのか?」
「まさか。どうせならいまの女にガキ産ませればいいだろって親父に言ったんだ」
「それはまた・・・・」
「だって、女がいるならガキが産まれたっておかしくねえだろ?つーか、いま現在いたっておかしくねえし。 けどさ、親父の女は子どもが産めない身体らしくて、さ」
「・・・・そうか」
吸うことを忘れていた煙草をぼんやりと見つめながら、温くなったコーヒーをゆっくりと口に含んだ。
視線を上げると、燈路の茶色い髪が、窓から入る日の光を浴びてさらに鮮やかに眼に映った。
「なんかそれでカッとなっちゃってさ・・・・なんでかな、すげえ悔しくて、悲しくて・・・・よくわかんないんだけど。 全部どうでもよくなっちゃって・・・・まあ、あとは知ってるとおり」
そっと肩を竦めて苦笑を洩らす燈路の表情が、なぜだかとても痛々しかった。
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