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相変わらずというか瀧川らしいセリフだ。
それに笑いながら視線を向けた。
信号が変わって、歩き出す人の波。
その波に流れるように歩き出していた仁が、動かない自分たちに気づき、足を止めた。
長めの前髪をかきあげながら、「なにしてんだよ」と、その口元が言う。
それに片手を上げて、自分の横をすり抜けていく瀧川が、一瞬振り返って、ゆっくりと微笑んだ。
「おまえも近いうちにわかるさ」
そう言いながら、瀧川が、握り拳で自らの胸を軽く叩いた。
胸に。
心に。
刻まれる存在を。
歩き出した二人の後姿を眺めて、ゆっくりと自分の手の平に視線を落とした。
刺激だけを追い求めていた手。
なんでもよかった。
ただ、なにかを掴んでいたくて、がむしゃらに手を伸ばした。
それがどんなに痛手を負うことであろうと、どうでもよかった。
でも、いまは・・・・。
この手が伸びる先を自分は知っている。
それは、たったひとつで。
唯一、心の底から欲しいと願って、手を伸ばした。
もしかして、自分は、なにかを掴んだのだろうか。
「トージ!なにしてんだよ!」
横断歩道の真ん中で立ち止まって手を上げる仁と瀧川の姿。
それにそっと苦笑を洩らし、一歩、足を踏み出した。
きつく握った手の奥で、きっとなにかを掴んだということを確信しながら・・・・。
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