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待ち合わせの駅前で、燈路は足を止めた。
人ごみの中に視線を廻らせ、その中心にある噴水のベンチを見て、小さく苦笑を洩らした。
遠くからでもわかる存在感。
そう、アイツはむかしからそういうヤツだった。
威圧感さえ感じさせるオーラ。
あの荒れ果てた夜の街で、アイツに絡む人間が誰一人としていなかったのも、 アイツを包むオーラが、それらをすべて撥ね退けたからだ。
それでも、いまは。
隣に座っている誰かと話しているアイツの眼は、あの場所では見ることができなかった穏やかな眼。
自分は、そう・・・・。
ああいう眼をするアイツが、うらやましかった。
「マヒト」
声をかけた自分を見上げて、マヒトが眼を細めた。
にやりと笑う口元は、愉快そうに弧を描いた。
「ひさしぶり」
ゆっくりと立ち上がるマヒトと一緒に、隣に座っていた人物も腰を上げた。
マヒトと同じ制服を着た、かなりの美人。
自分の視線に気づいたのか、その人物は綺麗な顔でにこりと微笑み、マヒトに声をかけた。
「真人、俺、向こうに行ってるから」
「ああ、悪いな」
「いや、ごゆっくり」
そう言って、もう一度こちらに笑顔を向けて、その人物は人ごみの中に消えていった。
その後姿を眩しそうに見つめるマヒトに、おもわず苦笑を洩らし、燈路は後ろを振り返った。
「おい、おまえらどうする?」
案の定というかなんというか、呆然とこちらを見ていた二人は、自分の問いかけに慌てて顔を上げた。
「え・・・・っと、そうだなー。腹減ったし、どっか入ってるわ」
「了解」
歩き出す二人に手を振ると、一度こちらを振り返った仁がおずおずと口を開いた。
「・・・・トージもあとでこいよ」
「はいはい」
信頼回復にはまだまだ時間がかかるらしい。
その後姿に苦笑を洩らしていると、後ろからマヒトが口を開いた。
「元気そうじゃねえか」
「おかげさまで」
小さく肩を竦めて見せると、マヒトは笑いながら再びベンチに腰を下ろした。
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