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「もう必要ねえな」
「え?」
「刺激を求める必要は、おまえにはもうねえだろ?」
そう言って、マヒトは小さく笑みを零した。
いま、自分の手の平に眠るもの。
あたたかく、胸に染み込んでくる、緩やかな、刺激。
いまなら、自分は、なにかを掴んだのだと、はっきりと言える。
やっと、気づいた。
「・・・・そうだな」
マヒトのように、なにかを手に入れて、穏やかに笑える時間が、いまの自分にはきっとある。
いまは、その時間を大切にしたい。
無駄な刺激を得るよりも、いまは、ずっと、触れていたい。
「おまえの言ったとおりだな」
にかりと笑って言うと、マヒトは「なにがだ?」と小さく首を傾げた。
「これ」
ポケットから取り出した携帯をちらつかせると、マヒトはその意味を理解して小さく笑った。
「そのとおりだろ?」
太陽を背にして、マヒトが切れ長の眼を細めて、笑みを浮かべた。
それは、むかし、何度も眼にした懐かしい笑みだった。
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