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「あれ?帰ってたんだ」
明かりのついた部屋のドアを開けると、テレビの前で胡坐をかいて煙草を咥えている浅井の姿があった。
視線を上げ、浅井がゆっくりと煙を吐き出す。
「おかえり」
「・・・・」
「なんだよ?」
「いや・・・・ただいま」
おもわず言葉に詰まった自分を見上げて、浅井は僅かに首を傾げた。
おかえりなんて言葉をかけられたのは何年ぶりだろう。
なんだかとてつもなくくすぐったい気分。
誤魔化すように髪をかきあげて、小さく笑みを零す。
そんな様子に、浅井は「なんなんだ」と、訝しげに眉を寄せた。
「メシは?」
「いや、食ってない」
そう首を振って隣に腰を下ろすと、浅井は脇にあったビニール袋を机の上にどん、と置いた。
覗きこむと、中身はコンビニ弁当。
おもわず呆れ顔で浅井に視線を向けた。
「・・・・アンタ、いつもこんなの食ってるの?」
「悪いかよ」
「悪かないけど、身体には悪いだろ」
「自慢じゃねえけど、料理はしないんだよ」
フンと鼻を鳴らして、浅井は煙草を揉み消した。
「メシくらい俺が作るのにさ」
そう笑うと、浅井は袋から弁当を取り出しながら呆れたように口を開いた。
「作る以前に材料がねえだろ」
「そりゃそうだ」
ほぼ空に近い冷蔵庫。
入っているのは酒と水とつまみくらい。
随分と不摂生な生活をしているらしい。
「どっか寄ってきたのか?」
その問いかけに、差し出された箸を受け取りながら、テレビの上に置いてある時計に眼をやった。
時間は七時を回っている。
「ああ、仁たちと話してて・・・・アンタ、いつ帰ってきたの?」
「おまえが帰ってくる十分くらい前かな。その前に電話したんだけど」
「マジ?不動産屋にいたから音消してたんだ」
「不動産屋?」
そう、と頷くと、浅井は眉を寄せた。
結局マヒトと話していたのは三十分ほどで、あとは仁と瀧川の質問攻め。
とりあえず、もう二度と行方をくらますような真似はしない、と仁に無理矢理約束させられた。
もちろん、指切りつきで。
「なんで不動産屋なんだ?」
「え?」
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