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「俺もなにかない限りはこないと思ってた」
「また女か?」
「まさか。そのへんの抜かりはねえよ」
むかしと表情が変わった。
前は入ってくるなり、いま座っているソファーに倒れこむように凭れかかっていた。
ほしいものを手に入れたせいなのだろうか。
いまは随分とすっきりした顔をしている。
そんなことを思い出して、浅井は小さく笑いながら口を開いた。
「じゃあ、今日はどうした?」
「浅井ちゃんに訊きたいことがあってさ」
「訊きたいこと?」
その言葉に、浅井は小さく首を傾げた。
「燈路のことなんだけど」
「早坂?」
そう、と頷きながら、男子生徒はさらに言葉を繋げた。
「燈路、どこにいるか知らない?」
「は?」
おもわず眼を瞬かせた。
「どこって・・・・学校にきてないのか?」
「一週間前からね」
「一週間・・・・?」
驚いて固まった浅井の手の中で、長くなった灰が机の上にぽとりと落ちた。
いったいどういうことだ。
眉を寄せると、男子生徒は小さく息を吐いて肩を落とした。
「浅井ちゃんも知らないのか・・・・」
「おい、なにがあったんだよ?」
「よくわかんねえんだよ。最初はただのサボりだと思って気にしてなかったんだけど、 四日目くらいになんとなく電話してみたら燈路の携帯繋がらなくてさ。 メールしても返事こねえし、担任が自宅に電話してみたらしいんだけど、 家の電話、現在使われてませんって・・・・」
「・・・・」
さっきより深い息を吐きながら、男子生徒はソファーの背もたれに身体を預けた。
「気になって仁と・・・・もう一人のダチと燈路の家に行ってみたんだけど、 家がないんだ」
「は?」
「ないっていうか、売家になってた」
「おい・・・・」
「いわゆる、燈路は行方不明」
そう言って、男子生徒は肩を竦めた。
顔を顰めて、すっかり短くなってしまった煙草を思い出したかのようにひと口吸い、それを灰皿に押しつけた。
フル稼働中らしい空気清浄機の音だけが、やけにリアルに感じた。
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