28人が本棚に入れています
本棚に追加
「アイツ、ホント、燈路っコだからさ」
「ほお」
「それにさ、探すっていったって、実際、俺たち燈路のことに関してはなにも知らねえんだ。 アイツ、自分のことはあんまり言わねえヤツだから。だから、探しようがないのも事実」
そう言って、男子生徒はお手上げとばかりに苦笑しながら肩を竦めた。
ほぼ同時に、昼休み終了のベルが鳴り響く。
ツンツンに立てた髪を撫でながら、男子生徒がなにかに気づいたように制服の内ポケットを漁った。
「電話か?」
「いや、メール。ああ、俺、ここにくること言ってなかったっけ・・・・」
そう呟きながら、携帯を見つめる甘い表情。
いままで見ていたものとはまったくの別物のようなその表情に、おもわず笑みが零れた。
「瀧川」
携帯をポケットにしまいながらこちらに顔を向けた瀧川に向かって、浅井はにやりと笑った。
「今度くるときは片割れと一緒な」
瀧川は笑いながら、ゆっくりと立ち上がった。
「勿体なくて見せれねえ」
そう言って、ドアに手を掛けた瀧川が、動きを止めて、ゆっくりと振り返った。
「・・・・あのさ、浅井ちゃん」
「ん?」
煙を吐き出しながら顔を上げると、瀧川は困ったように笑って遠慮がちに口を開いた。
「燈路のこと、頼むな」
「え?」
「アイツ、きっと浅井ちゃんに頼ってくると思う。そのときはアイツのこと助けてやって」
そう言い残し、瀧川は部屋を出て行った。
白い煙が舞う天井を眺めながら、浅井はゆっくりとした動作でポケットから携帯を取り出した。
『早坂』と書かれた番号。
通話ボタンを押すと、ほどなくして、それは当たり前のように訊き慣れたアナウンスに切り替わる。
意味のない携帯を机の上に置き、深い息を吐いた。
刺激が欲しい。
なにかに飢えたように、それでも寂しげに言った燈路。
不安定な足元は、自らを崖っぷちに追い込んでいるような、そんな危うさがあった。
「まだ、なにか足りないのか・・・・?」
ぽつりと洩れた言葉は、響き渡る始業ベルによって、あっけなくかき消された。
最初のコメントを投稿しよう!