2nd GAME

7/30
前へ
/30ページ
次へ
 車から降りて、浅井は小さく息を吐いた。  小さなメモ紙を確認して、眼の前の住宅に眼を移した。  夕暮れ時の高級住宅街。  その中でも一際目立つ、高級住宅。  そこに貼り出された『売家』という看板の文字が、やたらと眼を引いた。  広い庭と、住宅というより屋敷に近いようなお洒落な建物。  ゆっくりと見回して、意味もなく髪をかきあげた。  人気のなくなった家からは、不思議と冷たい空気しか感じない。 「いるわけねえか・・・・」  瀧川から教えられたとおりの家の様子。  燈路がここに舞い戻っているとは到底思えない。  担任教師から訊き出した住所の書いた紙をポケットに入れ、浅井は小さく肩を竦めた。  なんとなく、確認しておきたかったのだ。  燈路の内に秘めているものは、なんなのか。  あの、僅かな隙間から見える、寂しげな瞳の理由は、なんなのか。  そんな燈路に、家族はなにを与えていたのか。  見てみたかった。  寂しげに佇む屋敷からは、温もりは感じない。  赤い夕日を浴びても、その家は、なぜか息すらしていないような冷たい空気に覆われている。 「ここは、なにも意味がないんだな・・・・」  燈路にとって、ここは意味がない場所だったのだろう。  不思議とそう思った。  なにかを掴む場所ではない。  なにかを補う場所でもない。  なにかを与えてくれる場所でも、ない。  そんなふうに思った。
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!

28人が本棚に入れています
本棚に追加